不妊症と漢方

はじめに

不妊症でお悩みの方は少なくありません。現在、不妊に関するいろいろな検査法や治療法が開発され、成果を挙げつつあるようですが、それでもうまく行かない場合、あるいはそのような「最新の」医療に抵抗がある場合、漢方治療も選択肢のひとつになります。

私は内科医・漢方専門医で、とくに不妊治療を専門にやってきたわけではないのですが、漢方治療をやってきた中で不妊症の方も少なくなく、結構よくなっていること、一方で不妊にお悩みの方が多い割には漢方をご存知ない方も多いようなことから、ここでひろく情報を発信することにしました(詳しくは、『赤ちゃんが欲しい』(主婦の友社刊)vol. 31をごらんください)。

Q.どんなタイプの不妊症が漢方治療に向いていますか?

絶対に漢方が使えない、ということはありませんが、基本的には、「西洋医学でこれといった異常がないのに赤ちゃんができない」というケースになります。例えば、明らかな卵管狭窄がある場合、大きな筋腫がある場合などは漢方も歯が立ちません。

Q.不妊症の漢方治療とはどのようなものですか?

漢方では不妊症だけを特別視することはありません。漢方では、病気・身体の異常はすべて「健康な状態が歪んだもの」と考えます。ですから、漢方ではどうやって不妊症を治療するかを考えるのではなく、(1)どこが歪んでいるから不妊になっているのか、を考えます。そして(2)その歪みを是正する、これが漢方による不妊症の治療ということになります。

(1)の“歪みを見つける方法”は、別のページで書いていますように、漢方独特の四診で行います。問診が中心ですが、これに舌の様子を診る「舌診」、手の脈の様子を診る「脈診」、お腹の状態を触れて診る「腹診」などを行います。ここが漢方独自の考え方なのですが、「不妊症=子宮・卵巣の異常」とは考えません。「子宮・卵巣はあくまでも全身の一部であり全身とつながっている」、「全身の状態が悪いからそれが子宮・卵巣の異常を起こして不妊になっている」、と考えます。

(2)の“元の状態に是正する方法”は、漢方薬が中心です。これで全身の状態を改善していくわけです。これに生活面での指導(重要!)が加わる場合があります。

以下、もう少し詳しく書いてみましょう。

Q.不妊の人に見られがちな体質・生活習慣とは?

もちろん千差万別なのですが、一定の共通点があります。

●冷えやすい・低体温

これがその最たるものでしょう。冷えるということは、病気ではありません。ただ、体温が低いということが身体にどういう悪影響を与えるのか、実はあまり知られてはいません。人間に限らず、生物は37度前後で最も活動できるのですが(だからそれが平熱=至適温度となっています)、仮にこれが2度高い、または低いとどうなるでしょう。

話は少し飛びますが、私は以前、ある菌を用いた研究をしていたことがあります。その菌の活動は、試験管の温度を至適温度から2度ほど下げると、半減するのです。2度上げると、今度は高温で死滅するものも出てきます。非常に微妙なのです。これ以外にも、酵素反応実験を行っていたときも、温度には非常に気を使いました。

ましてや、人間は高等動物、わずか2度の温度差が恒常的に続くと、活動に支障を来たすことが容易に想像できるでしょう。高等動物とはいえ、実際に体内で起こっている生命活動は酵素反応の連続なのです。

さて、不妊に悩んでおられる方の体温を調べてみますと、ほとんど35度台と低いのです。これは脇の下で測る温度を言っているのですが、卵巣や子宮の温度はどうでしょうか。………考えただけでもぞっとしますね。

冷えやすい方は、服装に問題がある場合があります。“冬なのに短いスカート”ではいけません。下半身を自らすすんで冷やしているようなものです。また、暑いからといってエアコンの聞いた部屋に入ってばかりいたり、冷たいものばかり摂っていたりすると身体が冷えます。

●血流が悪い

冷えがあると血流が低下しますし、逆に血流が悪いと末端が冷えてきます。つまり、冷えと血流の悪さは悪循環を作っているのです。どちらが先かという問題がありますが、どちらかを改善すれば悪循環は止まります。

●むくみやすい

むくみやすい女性は多いと思います。むくみそのものは心臓や腎臓の病気でくることもありますが、そうでなくても来ることがあります。その原因は上で述べた「冷え」や、次に述べる「胃腸の機能低下」などです。冷えがあるとむくみやすく、逆にむくむと更に冷えます。これも悪循環を作っています。

●胃腸が弱い

胃腸がもともと弱い方、弱くなってきた方、ともに改善する必要があります。漢方では胃腸は「脾」と呼ばれ、身体をつくる最も大切な要素である「気」をつくる唯一の器官です。あらたな生命をつくる・宿す・育む過程には、この「気」を大量に必要とします。胃腸が弱いと「気」をつくることができません。また、水を不必要に溜め込んでしまい、むくみ・冷えの遠因ともなります。

Q.不妊治療に使う漢方薬とは?

別に特殊な薬を使うわけではありません。妊娠のための特効薬というものもありません。不妊治療以外にも使っている「普通の」漢方薬ばかりです。不妊治療とはいえ、漢方ではその方の全身の歪みを元に戻すような薬を使えばよいわけです。

歪みは各人で違うので、使う漢方薬もお一人ずつ違ってきます。ただし、上で述べたような「不妊の共通項」みたいなものがありますので、実際に使われる漢方薬の種類はそんなに多くはありません。自分にあった漢方薬がその方の「妊娠できる特効薬」となります。

多くの場合は、既製品である「漢方エキス製剤」を1〜3種類組み合わせて治療しますが、もっと十分な治療が必要な場合は、煎じ薬をお一人ずつに合わせて調合し、これを飲んでいただきます。

Q.どれくらい治療を続けるのですか?

今までの経験で、早い方で3ヶ月、長い方ですと限りはありませんが、最低1年は頑張ったほうがよいと思います。長い時間かけて歪んできた身体を立て直すには、それ相当の時間がかかります。

Q.妊娠にいたる率はどれくらいですか?

上に述べたように不妊治療を専門に行ってきたわけではありませんので、詳しい統計は取っていませんが、これまでのところ、1年前後の治療で25%前後ではないかと思います。

Q.費用はいくらぐらいかかりますか?

[1]健康保険が使える場合
初診料+処方せん代(+血液検査などの検査費用)がかかりますが、これは普通の風邪や高血圧などでかかられる場合と同じです。お薬は漢方エキス製剤です(数や種類に制限があります)。
[2]煎じ薬による「漢方自由診療」の場合
診察料:初診5,000円、再診料1,500円(相談のみの場合も含みます)
お薬代:処方内容により異なります(1日の目安は500~1,000円程度)
となります。なお、自由診療中の方が同じ医療機関で血液検査などを受けられる場合、その費用も保険は使えず全額実費となりますのでご注意ください。

Q.診察を受けるときはどうすればよいですか?

「クリニック案内」にしたがって受診してください。なお、近い将来に不妊外来の時間枠を設け、予約制に移行することも検討中しています。

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